2022.09.03 366pv

乳房再建後に乳輪・乳頭を再現する「ブレストアートメイク」の専門看護師

岩元 淑子

――現在のお仕事と経歴を教えてください。

フリーランスのアートメイク看護師として、都内の複数のクリニックで働いています。乳がんの治療で乳房再建を行った患者さんに乳輪・乳頭のアートメイクを施す「ブレストアートメイク」をメインに、乳輪縮小術の傷跡をカモフラージュするアートメイクや、眉毛やリップなど顔のアートメイクも施術しています。

iwamoto

 アートメイクを始める前は、関節リウマチケアの専門看護師として10年ほど働いていました。その後、アートメイクスクールで技術を学び、2017年からアートメイクを始めました。初めの1~2年は、リウマチケアとアートメイクを兼業し、アートメイクのスクールからオファーをいただいたことをきっかけに、アートメイク一本に絞りました。それからは、講師として講習生に教えながら、スクールが提携するクリニックで施術を行ってきました。

 2022年現在、ブレストアートメイクは、関東中央病院(世田谷区)、ナグモクリニック(千代田区)、J-SKIN CLINIC(銀座)、B-CLINIC(滋賀県)で美容アートメイクは、くさのたろうクリニック(目黒区)、BEAUTY CLINIC the GINZA(銀座)で施術しています。 

――アートメイク看護師へキャリアチェンジしようと思ったのはどうしてですか?

リウマチケアの看護師として働くうちに、看護師としてスキルアップするため、新しい技術を身に付けたいと考えるようになりました。偶然、乳輪・乳頭のアートメイクがあることを知り、直感的に挑戦したいと思いました。

 もともと乳輪・乳頭のアートメイクを専門とするつもりでしたが、初めは眉毛やリップなど美容のアートメイクを提供するクリニックで働きました。スクールの先生に「胸のアートメイクは、まだ世の中に広まっていないから、まず顔のアートメイクで経験を積み、胸に繋げたらいいのでは」とアドバイスをいただいたからです。今も乳輪・乳頭のアートメイクを行う傍ら、美容アートメイクも続けています。

――岩元さんが得意とするアートメイクは何でしょうか?

一番力を入れているのは、乳房再建した患者様へのブレストアートメイクです。年間60件ほどのブレストアートメイクを施術しています。

 乳がんの手術をしてから乳房再建した方のお胸は、乳輪・乳頭が無い状態となっています。そこに、アートメイクによって本物の乳輪や乳頭があるかのように見せるのがブレストアートメイクです。

 乳がんの患者様は、手術や治療を経験されてきて、もう乳輪・乳頭再建をしなくてもいいかなと考えている方も少なくありません。ブレストアートメイクでは、入院や手術をする事なく元の状態に近づけ、色素の色の濃淡を利用し、乳輪・乳頭再建を行っていなくても立体的に仕上げることができます。

 ブレストアートメイクは、私が経験してきたアートメイクの中でも特に難易度が高く、技術と経験が求められる施術だと感じています。海外では「areola tattoo」(乳輪のタトゥー)という名で知られていますが、日本には特に決まった呼び方が無かったので、私がブレストアートメイクという名前を考案しました。

――複数の医療機関でアートメイクを施術されていますが、どのような基準で勤務するクリニックを選択していますか?

安心・安全にブレストアートメイクを受けていただくため、主治医と連携の取れるクリニックのみで施術することにしています。

 ご自身の状態や治療状況について正確に把握されていない患者様も多いです。主治医との連携が取れていないことが原因で、感染症などのトラブルが起こってしまうことは絶対に避けたいと思っています。 

現在、ブレストアートメイクを施術している医療機関は、乳がんの治療や乳房再建を行っている病院です。そこでの乳房再建の仕上げとしてアートメイクをご希望される方に施術をしています。患者様の治療の経過を知ることができますし、万が一何かあったとしてもすぐに主治医の先生に相談できる環境です。

 InstagramなどSNSから直接お問い合わせをいただくこともありますが、その時にも必ず主治医の先生に相談してきてくださいとお願いしています。

「ブレストアートメイク」を世の中に広めていく

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――ブレストアートメイクを施術する上で心掛けていることを教えてください。

治療について丁寧に説明した上で、実際に受けるか受けないかは患者様に選択してもらうようにしています。 

ブレストアートメイクは、顔のアートメイクと同じように時間の経過と共に退色するので、定期的なメンテナンスが必要です。一度施術をしたら終わりではなく、追加で費用がかかることもご説明します。説明を聞いて、少しでも違和感や不安があったら、受けないことも選択肢の一つだと思っています。まずはカウンセリングだけ行うようにしていて、一度持ち帰ってご家族と相談して決めてもらうこともあります。 

また、乳輪・乳頭のアートメイクの施術事例は、インターネット上にはほとんど掲載されていません。私の手元には、カウンセリング時に公開する許可をいただいた患者様の施術事例の写真があります。口頭で説明するよりも、自分と似た症例を見る方がイメージしやすいと思いますので、写真を見た上で判断していただけます。

 ――美容業界への思いはありますか?

 アートメイクを学び始めたときから、美容目的で行う眉毛やリップのアートメイクではなく、医療行為としての乳輪・乳頭アートメイクを専門にしたいと考えていました。

 ですが、ブレストアートメイクは、美容医療と通ずる点もあると思っています。「元の姿に戻したい」「少しでもきれいになりたい」といった動機で行う点は共通しているでしょう。 

――岩元さんの今後のビジョンを教えてください。

まずは、ブレストアートメイクの存在をもっと多くの方に知っていただきたいです。乳房を再建できることは知っていても、仕上げにアートメイクという選択肢があることを知らない人は多いと感じています。

 そのために、ブレストアートメイクを紹介するホームページを作成いたしました。これまでもSNSを使って発信してきましたが、デリケートな場所だからこそ写真を掲載しにくかったり、載せても削除されてしまったりすることもありました。SNSだと不特定多数の方の目に留まってしまうのも気になりますし、患者様に掲載許可をいただいているとはいえ、後々イヤな気持ちになる方もいるのではとモヤモヤしていました。そこで、ホームページ内にパスワード付のページを作成し、連絡をいただいた方限定で症例写真を見ていただいております。 

以前より、周りの看護師さんからブレストアートメイクの技術を教えてほしいという声もいただいております。施術できる人が増えれば、症例も増えます。そうやってどんどん広まっていったらいいなと思っています。引き続き、目の前の患者様にしっかりと向き合いつつ、後進の育成や啓発活動にも力を入れていきます。

取材・文/小原らいむ