2022.08.23 391pv

唇の色をきれいに!日本人向けリップアートメイクのパイオニア

櫻井グリコ

――これまでの経歴を教えてください。

看護師としての最初の就職先は、急性期の形成外科・皮膚科の混合病棟です。そこでは、主に全身やけどなど重症の熱傷を負った患者様の対応をしていて、3年半勤めました。

その後、大手の総合美容外科・皮膚科に転職し、7年ほど美容医療に携わります。美容ナースとして働くうちに自分にしかできない仕事をしたいという思いが強くなり、働きながら美容師の専門学校に通ったこともありました。ある時アートメイクの存在を知り、看護師が主体となって施術できる点に魅力を感じ、アーティストに転身することにしたんです。

アートメイクの技術を習得するために通ったスクールで、のちに一緒にクリニックを立ち上げることになる医師の西川嘉一先生と出会いました。西川先生とは「美容ナースが活躍できる場を作りたい」「アートメイクを日本の文化として普及させたい」という思いが一致し、意気投合。2020年9月に医療アートメイク専門クリニックのTHE ARTMAKE TOKYO(ジ・アートメイク東京)を開業しました。 

現在は、フリーランスのアートメイクアーティストとして、THE ARTMAKE TOKYOでリップ、眉毛、アイラインなどの施術を行いながら、アートメイクのための色彩理論、リップアートメイクの講師としても活動しています。

――美容ナースを目指したきっかけは?

看護学校に通っていた18歳の時に自分自身が美容施術を受けて、美容ナースという働き方があることを知りました。クリニックで見た美容ナースの方達は、皆とてもきれいで美意識が高く、すごい世界だなあと。自分もこんな世界で働きたいと思ったのを覚えています。

実は、看護学校に入学する前は、美容師になりたくて。美容の分野で働きたい思いはずっと持っていたので、美容ナースを目指すことにしました。

――グリコさんが得意とする施術を教えてください。

現在担当するアートメイクは、8割がリップです。リップを中心にやっていこうと思ったのは、アートメイクの業界に入った時にリップの症例を見て、海外と日本のレベルの差に驚いたから。リップアートメイクにはカラーセオリーの理解が不可欠ですが、日本ではセオリーを理解せずに感覚に頼って施術しているケースが多いように見えたんです。自分は、色彩について美容師の専門学校で勉強してきたので、その知識がリップアートメイクに生かせるのではと考えました。

また、アートメイクは、ネイルやヘアカラーと違って、生きている細胞に色を付ける施術です。色彩の知識に加えて人体の知識も無いと、再現性の高いリップアートメイクは提供できません。美容師の学校で習ったカラーの知識と、形成外科での経験をマッチングさせ、独自のアートメイクを行えるようになりました。 

特に力を入れているのが、日本人に多いダークリップを改善するアートメイクです。ダークリップとは暗い色の唇のことで、アートメイクで透明感のあるナチュラルなピンク色に整えます。これまで数百の症例を担当しました。 

唇のくすみの原因となる2種類の色素に対し、それぞれ別の方法でアプローチし、光の反射を利用して明るくみせる技術です。暗い色の唇にただ色をのせただけでは不自然な濃さに仕上がってしまうので、カラーセオリーを理解したアーティストでないと難しい施術だと思います。

――リップアートメイクを施術する上でこだわっていることは?

施術時間の短縮にはすごくこだわっていますね。リップのアートメイクは、一般的には2~3時間かかることが多く、お客様にとっても負担になってしまいます。アートメイクの原理を理解し、正しい方法で施術すれば、短時間で美しく仕上げることが可能です。自分の場合は、40~50分で施術が終了します。

また、比較的ダウンタイムが大変と言われているリップアートメイクですが、正しい方法で施術することによって、施術後の負担も軽減できます。ダウンタイムは施術後3~5日とお伝えしています。

 アートメイクを受けてよかったと思う人が増えるように、技術を広めていきたい

――施術やカウンセリングで意識していることはありますか?

入れ墨の技術を応用したアートメイクは、一度色素を入れたら簡単には除去できないものです。眉毛やリップは、顔の印象を大きく左右するパーツなので、アートメイク一つで顔の印象がガラっと変わります。場合によっては美容整形以上のインパクトがあるかもしれません。

だからこそ、毎回毎回「失敗できない作品作りをしている」という思いで施術に臨んでいます。お客様にも、初回のカウンセリングやデザインの際に、悩んでいるなら施術を受けるかどうかすぐに決めないほうがいいし、家族に相談してきてとお伝えします。

美容クリニックでは、緊張して自分の希望を伝えられないお客様も少なくありません。お客様の方から、施術を受けるかどうかもう一度考えたい、と言い出しやすい雰囲気を作ることを心掛けています。

また、予約待ちの期間に、SNSを通じてお客様との関係を構築し、親近感を持ってもらえるようにしています。予約は大体2カ月待ちなのですが、施術までの間にSNSで情報収集する方は多いはず。どんな人がどんな思いで施術をしているのかを理解してもらえるような投稿をしています。

――美容業界に対してどのような思いがありますか?

アートメイクも美肌治療も、誰に施術してもらうかで選ぶ時代だと思っています。もちろん、施術の可否を判断するドクターも重要ですが、実際に施術するのは看護師です。担当するナースがしっかり勉強しているか、丁寧に施術してくれるかだけでなく、人柄や自分との相性も大切でしょう。

人気のあるナースは、SNSでの発信にも力を入れています。その人のSNSや口コミを見て、自分に合いそうな人を探してみてください。参考になる口コミは、Twitterが探しやすいと思います。

ただ、インターネット上の情報が全てではありません。まずはカウンセリングを受け、実際に話してみて判断するのがおすすめ。大切な自分の顔の治療です。急いで決断せずに、まずは美容ナースに会って話してみることが、納得のいく治療を選ぶためには大事だと思います。

――今後チャレンジしたいことは?

眉毛のアートメイクは、日本でも少しずつ浸透してきました。一方、リップは、まだまだ伸びる余地があると感じています。今後もリップのアートメイクを普及させるために活動し続けます。カラーセオリーの理解が大切な施術ですので、アーティスト向けに教科書や書籍を出版できたらいいなとも思っています。

アートメイクは、アーティストの技量で仕上がりに差が出る施術です。アートメイクを受けて後悔する人が増えたら、アートメイク自体が日本で受け入れられなくなってしまうかもしれません。受けてよかったと思ってくれる人を増やすためには、技術力の底上げが必要です。

自分一人で施術できる件数は限られています。技術や知識を独占するのではなく、学ぶ意思のあるアーティストにはどんどん普及させていきたいなと。質の高い医療を受けられる人が増えるように、講師としての活動にも力を入れていきます。

取材・文/小原らいむ