2022.11.08 58pv

丁寧なカウンセリングが強み。講師としても活躍するアートメイクナース

元場みさこ

――看護師としてどのような業務に携わってきましたか?

臨床経験は5年で、消化器外科の病棟などで勤務しました。その後、企業の看護師として4年働いたあと、美容医療の道に進みます。美容ナースとして初めて勤めた大手美容クリニックでは、皮膚科施術から手術の介助まで幅広い治療に関わることができました。

2018年にアートメイクに出会い、今は表参道のレカルカクリニックで眉、リップ、アイラインの施術を行いながら、アートメイクの講師としての活動も開始しました。アートメイクの導入を考える美容クリニックや個人から依頼をいただき、教えに行っています。

アートメイクを始めたのは、自分が受けてみたいと思ったのがきっかけです。たまたま見つけたクリニックで友人が働いていることがわかりました。友人に連絡してみると、施術者を募集しているとのことでしたので、そこからアートメイクに携わるようになりました。

――美容ナースになった理由を教えてください。

美容クリニックに転職したのは看護師10年目くらいのタイミングで、年齢的にも美容に興味が湧いてくるころでした。美容に興味があるから、という単純な理由で美容クリニックに転職することにしたんです。

もともと看護師になろうと思ったのは、小学生の時にテレビで見たナイチンゲールに憧れたから。「人を助けたい」という思いが原点にあるので、美容に転職することに迷いがあったのも事実です。ですが、実際に美容ナースとして働いてみると、これまでの看護師の経験がかなり生かせる仕事だということがわかりました。

臨床勤務していた時は、患者様の精神的な部分のサポートに力を入れてきたつもりでした。美容医療でも、整形や肌治療でコンプレックスを改善することで、長年抱えていた患者様の悩みやモヤモヤを和らげることができます。

初めは、興味があるから挑戦してみようくらいの気持ちで美容ナースになりましたが、「患者様に少しでも明るい気持ちになってもらいたい」という私の看護観とすごく合った仕事でした。

それに、患者様との距離が近く、時間をかけて施術できるやりがいのある仕事ですので、この道に進んでよかったなと思っています。

――元場さんのアートメイクの強みは何でしょうか?

流れ作業的な施術はしたくないと思っていて、カウンセリングに特に力を入れています。患者様からすれば、初対面の人に眉毛を描かれてしまうわけですので、限られた時間でいかに信頼関係を築けるかが大切だと考えてきました。

カウンセリングでは、仕事の内容やご家族の話、今悩んでいることなど、アートメイクとは直接関係のないことまで聞くようにしています。30歳代から50歳代の方に施術をすることが多いのですが、何かしら悩みを抱えている方が多い世代だと思います。人に話すだけで楽になる方もいるので、一つひとつのお話をすごく大切に聞き、カルテにもメモしています。次に来ていただいたときに、前回聞いたお話をすることもありますね。

また、カウンセリングをしっかり行うことには、その方のさまざまな表情をチェックできるメリットもあります。顔の筋肉の動き、視力、前髪の分け方などもアートメイクのデザインに影響しますので、それを確認したうえでデザインを決めています。

アートメイクの上手い下手を、プロではない患者様が判断するのは難しいでしょう。ですので、技術があることは大前提として、カウンセリングやコミュニケーションによって、お互いが納得した上で、より満足していただける施術を提供したいと思っています。

――抗がん剤治療を行う患者様へのアートメイクについて教えてください。

これから抗がん剤治療を行う方に眉のアートメイクを行っています。抗がん剤治療を行う患者様には、身体への負担なども考慮し、適切なタイミングでアートメイクを施術する必要があります。しかし、アーティストが増えてきたこともあり、間違った認識が広まってしまっていると聞いています。

そこで、友人の看護師が、抗がん剤治療を行う患者様に安全にアートメイクを受けていただくためのプロジェクトを立ち上げたんです。私もこのプロジェクトに共感し、少しでも力になれたらと賛同しました。女性特有のがんや、抗がん剤治療に携わった経験のある看護師たちが参加しています。

医療としての安全なアートメイクを提供できる看護師を増やしたい

――施術中はどんなことを意識していますか?

アートメイクは、時間のかかる施術です。長時間ずっと同じ体勢でベッドに横たわるのは負担だと思うので、患者様の体勢など常に施術以外のところにも気を配るようにしていますね。

できるだけ安楽な体位で施術を受けていただくため、こちらから「今足を動かしても大丈夫ですよ」などと適宜声をかける他、患者様からも話しかけやすい雰囲気にすることを心掛けてきました。

患者様が言葉を発しやすい環境を作るため、初めのカウンセリングの段階から信頼関係を構築しておくことを大切にしています。

――美容業界への思いをお聞かせください。

「美容医療」と呼ばれていますが、私たちが提供しているのは、美容である以前に医療です。看護師免許を取得した上で美容ナースとして働いているわけなので、医療であるという意識を忘れないようにしています。

美容業界が盛り上がってきてうれしい反面、現場では少し怖いなと感じるシーンがあるのも事実です。勢いがあるのはいいことだと思うのですが、医療の原点を忘れずに、安心安全な施術を行えるナースや医師が増えていけばいいなという気持ちがあります。

――今後どのような活動をしていきたいですか?

施術が好きな一方で、人に教えることも得意だと自負しています。今後は、本気でアートメイクをやりたいと考えていて、かつ適性のある方にアートメイクを教える講師の活動に、さらに力を入れていきたいです。

講師の仕事は、子供を育てるような感覚があってすごく楽しく、一人ひとり大事に教えることにやりがいを感じられています。私が指導した看護師には、医療行為としての安全なアートメイクを提供できるアーティストになってもらいたいですね。

取材・文/小原らいむ